EC(イー・コマース)市場の規模や今後の予測はどうなるのか。最新事例や業界トレンドを抑えて、2021年以降を予想。
はじめに
近年、ECを始めようとしている事業者は増えており、コロナ禍をきっかけとして爆発的にその流通量は増加しています。しかし、何のアイディアもなくECに進出して失敗したという話は多く、周囲のトレンドを抑えられていない方が多い印象です。この記事では、EC業界がどういった流れの中で動いているのかを把握していただき、今後の戦略策定に役立てていただくために書きました。ぜひご覧になって、EC市場に対する知見を深めていただければと思います。
Eコマース市場の現在
全体で20兆円、物販で10兆円の市場
ECの市場は、国内の総取引額で20兆円を超える規模となっています。そして、その半分である10兆円を物販が占めています。規模が大きすぎてどのくらいのものかイメージがつかないかもしれませんが、日本の国家予算が100兆円程度、金融業界や、自動車業界の市場規模が大体65兆円くらいなので、その1/3程度の市場感をすでに持っていると考えれば、市場の大きさや成長速度を実感していただけるのではないでしょうか。
年間で8%ずつ成長している
EC市場は安定的に年8%程度で成長しています。日本の小売の市場規模全体が145兆円ほどなので、ここ20年近くでその10分の1もがオンラインに代替されていると考えれば、非常に急速にEC化が進んでいることを実感していただけると思います。
商材ごとに異なるEC化率
EC化が急速に進んでいることは理解いただけたかもしれませんが、EC化が全産業・全商材で均質に進んでいるかと言われると、そうではありません。もともと通販が強いとされていた、事務用品や家具などの領域では、全販売量にしめるECの割合は高くなっていますが、食品やアパレル産業については、まだまだ店舗ビジネスで収益をあげているところが多いのが実情です。しかし、食品はEC化が急速に進んでいますので、伸び率という面では上位の商材に分類されます。
2025年には店舗数が600万店以上に
EC市場が拡大しているということは、そこに参入する企業も増加していることを意味しています。実際に、2015年にはEC事業者の数は100万店ほどだったのが、2019年には300万店と、3倍近くに増加しています。毎年およそ50万店ほどの新規参入がなされているので、2025年には600万店以上のECが存在している予測になります。これは伸び率が一定と仮定して推定をしているものですが、今後の市況や、インスタントECの普及などによって、参入事業者はさらに増える可能性も十分にありえます。
最新テクノロジー動向
ヘッドレスコマース
Shopifyを始めとしたグローバルEC構築サービスが台頭してきています。これらのサービスでは、ヘッドレスコマースと呼ばれるシステム構造で構築されており、顧客と直に接点になる”店舗部分”と、在庫管理や決済などの”バックヤード”の部分が分離された構造になっています。この構造の進化によって、アプリや動画を介したライブコマースなど、多様な販売方法が、同一のシステムで比較的簡単に始められるようになっていきます。
定期購買に強みを持つシステムの台頭
国内系のサービスでは、定期購買(サブスクリプション)を初めとした日本独自の仕様に特化したサービスが成長しています。この定期購買では、価格競争になりやすいEC業界の中で、購買の後の体験までも設計して継続して購買をしてもらうことを通じ、顧客一人あたりのLTVを伸ばすことができるので、長期的な収益をあげられると注目されている手法です。実際に、サブスクストア / EC forceは非常に伸びており、顧客のLTVを向上させることに強みを持つシステムが、多くの事業者から求められていることを示しています。
Instagram販売
自社ECを構築する必要すらなくなってきている側面もあります。Instagramはショップ機能を強化しており、今後はInstagramアカウントだけで物販を行うことが可能になっていくでしょう。さらに、広告機能もどんどん進化しており、見込み客をすぐにAIが見つけてくれるようになっているので、集客の面で不安があった事業者の方にとってもEC参入はより手の伸ばしやすい経営手法の一つとなっていくのではないでしょうか。
プラットフォーマーの研究開発
楽天やAmazonといった流通規模の大きなモール型ECでは、物流やカスタマーサポートといった物販のボトルネック解消に向けて大きな投資を続けています。まだまだ実用化までは遠いですが、アメリカなどではドローン配送などのテクノロジーを利用した研究開発が積極的に行われています。今後はそういったプラットフォーマーのインフラを利用することで、最小限の投資で、最高のカスタマーサービスが実現できるようになっていくのではないでしょうか。
海外の情勢
中国
中国のEC市場の盛り上がりは目を見張るものがあります。例えば、独身の日と呼ばれる日1日だけで、主要ECサイトのアリババの取引総額が4兆円を超えるなど、その勢いは格別です。また、テクノロジーという面でも、中国は最先端を歩んでおり、ライブコマースやOMO*店舗の増大など最新のテクノロジー利用が目立ちます。また日本では小売店がECに参入することが一般的ですが、逆に、テクノロジーをもった企業が店舗の小売に進出する、ニューリテールという動きも見られています。
※OMOとは、「Online Merges with Offline」の略で、オンラインでの購買体験と、オフラインでの購買体験を併合することをいいます。この取り組みによって、より多くのデータが取得できるようになり、購買体験をより魅力的なものにすることが可能です。
欧米
欧米では、大手のスーパーや小売がまだまだ存在感を出すものの、D2Cの伸びが目立っています。D2CとはDirect to Consumerの略で、製造業者が直接消費者に物販を行う販売形態です。このような動きが見られる背景としては、顧客のLTVの向上が収益につながるためであり、実際に多くのD2Cブランドが広告予算を投下して、直に消費者と関係性を持つための投資を行っています。
東南アジア
東南アジアでは、その経済成長を武器に欧米や中国を追従して、様々な類似サービスが展開され、特にモール系ECが成長しています。中国のアリババの参加である「Lazada」というモールや、わずか創業4年でアプリダウンロード数がNo.1となった、「shopee」と呼ばれるモールサービスが勢いを持って展開をしています。
中南米
中南米でもEC化の流れは進行しています。実際に、EC市場の成長率という面では、中国や日本、欧米を上回るほどです。中南米地域では、チャージ式の決済システムで購買ができるECの普及が進んでいます。これは、銀行口座を持っておらず、クレジットカードを作れない人が多くいるために、そういった人たちでもECが利用できるような仕組みとして発展したためです。そのため、利用されている決済サービスもpaypalなどが多いようです。
今後の予測
インフルエンサーの重要性が増大
ECの数が爆発的に増えるにしたがって、クチコミの重要性は増えていくと思われます。しかしながら、昔からあるクチコミサイトを消費者は信じなくなっている傾向も、同時に出てきています。そのため、今後は、信頼できる個人の発信が、多くの人の購買の意思決定に与える影響が大きくなっていきそうです。
パルス型購買の増加
Googleが提唱する購買行動で、従来のファネル型消費*ではなく、買いたいと思った瞬間に買い物自体を終わらせる「パルス型」の購買が進んでいくことが予想されています。実際に、Amazonがダッシュボタンや、Alexaなどのスマートスピーカーで商品が購入できるような仕組みを整えているのも、パルス型購買を見込んでの投資だと言えるのではないでしょうか。
※ファネル型消費とは、日本語で「漏斗(ろうと)」の意味である、ファネルのように消費行動を捉えた概念です。この考え方では、顧客の消費行動は、認知→関心→比較→購買のような心理的な段階(変化)を経て行われると考えられています。
マイクロ(スモール)マスブランドの増加
日本人の殆どが利用するマスブランドと対比して、少数だが一定の規模を持っているターゲットに対する特化型ブランドが増えていくと考えられます。有名どころでは身長150cm前後の女性にターゲットを絞ったアパレルブランドのCOHINAなどがあげられるでしょう。ECによって商圏の地理的制約がなくなることで、より絞ったターゲティングを行ったブランドでも十分に収益をあげられるようになっていくことが期待されます。
大手ブランドによる買収
様々なECサイトが乱立するに従って、その中で勝つことは従来の大手メーカーや小売店にも難しくなってきています。しかしながら、ブランドを世界レベルに押し上げるなど、一定以上の規模からさらに事業を成長させるノウハウという側面では、彼らの力は強力な武器であることは間違いありません。今後は、LVMHが行うような、「ブランドポートフォリオ」戦略が、大手ブランド主導で進んでいくのではないでしょうか。