目次
「ECサイトの売上が伸び悩んでいる」
「今からEC事業を立ち上げるが何から手をつければ良いかわからない」
多くのEC担当者が、上記のような課題に直面しています。
変化の激しいEC市場で成果を出すためには、場当たり的な施策の繰り返しではなく、一貫した販売戦略が不可欠です。
本記事では、EC事業を成功に導くための販売戦略について、必要性から具体的な立て方、明日から使える施策までを体系的に解説します。
他社の成功事例も交えながら、自社のEC事業を次のステージへ引き上げるためのアクションプランを提示します。
ECにおける販売戦略とは、インターネット上で自社の商品やサービスを「誰に」「何を」「どのように」届けて売上を最大化するかを計画することです。
単に広告を出す、SNSを更新するといった個別の施策(戦術)の上位に位置する、事業全体の羅針盤となるものです。
今日のEC市場は、多くの企業が参入し、競争が激化しています。
「なぜ今、〇〇の商品が売れているのか」「なぜ〇〇の施策は失敗したのか」理由を正しく分析できなければ、継続的な成長は見込めません。
一貫した販売戦略があって初めて各施策が有機的に連携し、事業全体の成長へとつながります。
EC販売戦略は、感覚や思いつきで立てるべきではありません。
客観的なデータに基づき、論理的なステップを踏んで立てることが成功への鍵です。
本章では、誰でも実践できるよう戦略立案のプロセスを5つの具体的なステップに分解して紹介します。
手順に沿って、自社の状況を整理してみてください。
すべての戦略は、明確なゴールを設定するステップから始まります。
まず、事業全体が最終的に目指す目標(KGI:重要目標達成指標)を具体的に定めます。
例えば、「1年後のEC売上高を1.5倍にする」「新規顧客獲得数を年間で2,000人増やす」といったものです。
次に、KGIを達成するための中間指標となるKPI(重要業績評価指標)を設定します。
KPIは、日々の活動の進捗を測るための具体的な数値目標です。
ECサイトの売上は一般的に以下の式で表されるため、各要素をKPIとして設定するのが効果的です。
以下のような項目でKPIを設定すると、目標達成に向けた課題がどこにあるのか(集客が足りないのか、購入率が低いのかなど)を明確にできます。
次に、目標達成を阻む課題や活用できる強みを明らかにするため、現状を客観的に分析しましょう。
本ステップでは、代表的なマーケティングフレームワークである「3C分析」と「SWOT分析」が役立ちます。
3C分析は、自社を取り巻く環境を3つの視点から分析する手法です。
分析対象 | 主な分析項目 |
---|---|
市場・顧客 (Customer) | – 市場規模や成長性 – 顧客の属性や持っているニーズ – 顧客の購買決定プロセス |
競合 (Competitor) | – 競合の属性と強み・弱み – 競合の売上規模やシェア – 競合が取っている販売戦略 |
自社 (Company) | – 自社の強み・弱み – 自社のブランドイメージや認知度 – 自社のリソース(人、物、金、情報) |
SWOT分析は、内部環境と外部環境を「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの軸で整理する手法です。
内部環境(自社の要因) | 外部環境(市場などの要因) | |
---|---|---|
プラス要因 | 強み (Strength) 例:独自の技術力、高いブランド認知度 | 機会 (Opportunity) 例:市場の成長、ライフスタイルの変化 |
マイナス要因 | 弱み (Weakness) 例:低い認知度、限られた予算 | 脅威 (Threat) 例:競合の増加、法規制の変更 |
こうしたフレームワークを用いて自社の立ち位置を正確に把握すると、効果的な戦略立案に役立ちます。
現状分析の結果をもとに、事業全体の進むべき方向性を定めます。
具体的には「STP分析」と呼ばれるフレームワークを用いて、「誰に」「どのような価値を」提供するのかを明確にします。
定めた戦略の方向性を、具体的な実行プランに落とし込みます。
本ステップでは、「マーケティングミックス(4P)」と呼ばれるフレームワークが有効です。
マーケティングミックスは、戦略を実現するための要素を4つのPに分解して考える手法です。
4P | ECサイトにおける検討項目 |
---|---|
製品 (Product) | – 商品ラインナップ – 商品の品質、デザイン、パッケージ – 保証やアフターサービス |
価格 (Price) | – ターゲット顧客が受け入れられる価格 – 競合の価格設定 – セールや割引の戦略 |
流通 (Place) | – 販売するECプラットフォーム(自社EC、モール型ECなど) – 在庫管理や配送方法の構築 – 用意する決済方法 |
販促 (Promotion) | – ターゲット顧客へのアプローチ方法(広告、SEO対策、SNSなど) – 商品の魅力を伝えるためのメッセージ – 実施する販売促進キャンペーン |
4つの要素に一貫性を持たせることで、戦略の成功確率が高まります。
戦略と施策が決まったら、計画に沿って実行に移します。
しかし、戦略は一度立てたら終わりではありません。
市場や顧客の反応を見ながら、継続的に改善していくことが極めて重要です。
本プロセスは「PDCAサイクル」と呼ばれます。
上記のサイクルを回し続けることで、EC事業は着実に成長していきます。
ECサイトの基本的な販売戦略を構築したら、事業をさらに成長させるための発展的な戦略も視野に入れましょう。
顧客との接点を増やし、より大きな市場で戦うための重要な考え方です。
自社の事業フェーズやリソースに合わせて、以下のような戦略の導入をご検討ください。
重要なのは、一度にすべてを導入するのではなく、段階的にテストし結果を分析しながら最適化していくことです。
自社ECサイトだけでなく、楽天市場やAmazonといった集客力の高いECモールにも出店する戦略です。
各プラットフォームには異なる顧客層がいるため、販売チャネルを増やすことでより多くの潜在顧客にアプローチできます。
各モールの顧客層を分析し、自社の商品との相性を考慮して出店するモールを選びましょう。
各モールの特徴を理解し、各プラットフォームに最適化された商品ページとマーケティング戦略の展開が重要です。
ただし、モールごとに出店料や手数料、独自のルールがあるため、コストと運用負荷を考慮する必要があります。
手数料構造を詳細に分析し、利益率を確保できる価格設定を行いましょう。
また、在庫管理、顧客対応、プロモーションなど、運用に必要なリソースを事前に見積もり、効率的な運用体制を構築してください。
オンライン(ECサイト)とオフライン(実店舗)の垣根をなくし、顧客にあらゆる接点で一貫した購買体験を提供する戦略です。
例えば、「ECサイトで購入した商品を店舗で受け取る(クリック&コレクト)」「店舗の在庫をECサイトで確認できる」「店舗で商品を見て、ECサイトで購入する」といった仕組みが挙げられます。
顧客の利便性を高め、ブランド全体のファン育成につながります。
顧客データの一元管理を行い、オンラインとオフラインでの購買履歴を統合すると、よりパーソナライズされたサービスを提供可能です。
オムニチャネル戦略を成功させるには、店舗スタッフへのトレーニングが不可欠です。
ECサイトとの連携方法や、顧客への説明方法などを徹底する必要があります。
また、顧客からのフィードバックを積極的に収集し、改善を続けることが重要です。
国内市場だけでなく、海外の顧客に向けて商品を販売する戦略です。
インターネットを通じて世界中に商圏を広げられるのは、ECの大きな魅力の一つです。
ターゲットとする国を選定する際には、市場規模、成長率、文化的な背景、競合状況などを考慮する必要があります。
事前に市場調査を行い、自社の商品が受け入れられる可能性が高い国を選びましょう。
Shopifyのような越境ECに対応したプラットフォームを活用すれば、多言語・多通貨対応も比較的容易に行えますが、各国の法律や関税、配送方法など、専門的な知識が必要です。
現地の法律や規制を遵守するために、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
また、国際配送に対応した配送業者を選定し、配送コストやリードタイムを最適化しなければなりません。
多言語対応のカスタマーサポート体制の構築も重要です。
スマートフォンアプリを開発し、顧客を囲い込む戦略です。
プッシュ通知による情報発信や、アプリ限定のクーポン、ポイントカード機能などを通じて、顧客との直接的なコミュニケーションを深め、リピート購入を促進します。
アプリを通じて顧客の購買履歴や行動データを収集し、パーソナライズされた商品レコメンデーションやキャンペーンを提供すると、顧客エンゲージメントを高められます。
さらに、ゲーム要素を取り入れたり、コミュニティ機能を実装したりすると、アプリの利用頻度を高めることが可能です。
アプリのダウンロード数を増やすためには、アプリストア最適化(ASO)対策を行うことが重要です。
キーワードの選定、アプリの説明文の最適化、スクリーンショットの改善などを行いましょう。
また、既存顧客に対して、アプリのダウンロードを促すキャンペーンの実施も効果的です。
アプリの利用状況を分析してUI/UXを改善し続けることが、長期的な成功につながります。
メール配信や顧客の行動に合わせたアプローチなどを自動化するツール(MA:マーケティングオートメーション)を導入する戦略です。
例えば、「商品をカートに入れたまま離脱した顧客に、リマインドメールを自動で送る」「特定の商品を購入した顧客に、関連商品をレコメンドするメールを送る」「誕生日の顧客に、バースデークーポンを自動で送る」といった施策が効果的です。
手作業で行っていたマーケティング業務を効率化し、より一人ひとりの顧客に合わせたきめ細やかな対応を実現します。
MAツールを導入する際には、自社のビジネスニーズに合った機能を持つツールを選定しましょう。
また、顧客データをMAツールに統合してセグメンテーションを細かく行うことで、より効果的なマーケティング施策を実施できます。
戦略を実現するための具体的な施策を実行していきます。
本章では、ECサイトの売上を構成する4つの要素「集客」「CVR(転換率)向上」「単価向上」「リピート率向上」に沿って代表的な施策を紹介します。
自社の課題がどこにあるかを見極め、優先順位をつけて取り組みましょう。
どれだけ良い商品やサイトを用意しても、まずはお客様に訪問してもらわなければ売上は立ちません。
ECサイトに新しい顧客を呼び込むための、代表的な集客施策を見ていきましょう。
SEO対策(検索エンジン最適化)は、Googleなどの検索結果で自社サイトを上位に表示させるための施策です。
広告費をかけずに、商品を探している意欲の高い顧客を継続的に集客できるのが大きなメリットです。
また、ブログ記事や動画など、顧客にとって有益なコンテンツを発信し続けるコンテンツマーケティングも重要です。
例えば、「オーガニックコットンの選び方」といった記事を作成すれば、すぐに購入はしないものの将来顧客になる可能性のある層との接点を作れます。
短期的に集客効果を得たい場合に有効なのが、Web広告です。
特定のキーワードで検索した際に表示される「リスティング広告」や、ユーザーの興味関心に合わせて表示される「SNS広告」などがあります。
年齢や地域、興味などでターゲットを細かく絞って配信できるため、費用対効果の高い集客が可能です。
また、InstagramやTikTokなどのSNS活用も欠かせません。
商品の魅力的な写真や動画を投稿してブランドの世界観を伝えたり、キャンペーンを実施してフォロワーとの交流を深めたりすると、ファンを増やしてサイトへの流入につなげられます。
サイトに訪れたユーザーを、確実に購入へと導くための施策も重要です。
せっかく集客しても、サイトが使いにくかったり、情報が不足していたりすると、顧客は購入せずに離脱してしまいます。
LPO(ランディングページ最適化)は、広告などをクリックしたユーザーが最初に訪れるページを改善する施策です。
魅力的なキャッチコピーやわかりやすい商品画像を用意し、ユーザーの離脱を防ぎます。
EFO(エントリーフォーム最適化)は、購入手続きの際に入力するフォームを改善する施策です。
入力項目を減らしたり、「郵便番号から住所を自動入力」といった支援機能を導入したりすれば、面倒な入力を簡略化し、「カゴ落ち」と呼ばれる購入直前での離脱を減らせます。
ECサイトでは商品を直接手に取れないため、他の購入者のレビューや口コミが重要な判断材料です。
キャンペーン(例:レビュー投稿でポイントを付与する)を実施し、積極的にレビューを集めることがCVR向上につながります。
また、AIを活用したレコメンド機能も効果的です。
顧客の閲覧履歴や購買履歴から、「この商品を見た人はこんな商品も見ています」といった形で関連商品を自動で表示すれば、顧客の興味を引きつけ、ついで買いを促せます。
売上を効率的に伸ばすためには、顧客一人当たりの購入額(顧客単価)を高める視点も必要です。
同じ顧客数でも、一人ひとりがより多くの金額を使ってくれれば、全体の売上は大きく向上します。
アップセルとは、検討中の商品よりも高価格帯の上位モデルを提案し、購入してもらう手法です。
「〇〇のモデルなら、〇〇の機能も付いています」といった形で、より高い価値を提示します。
クロスセルは、検討中の商品と関連性の高い商品を「合わせ買い」として提案する手法です。
例えば、カメラを購入しようとしている顧客に、メモリーカードや三脚を一緒に提案するのがクロスセルです。
こうした施策を商品ページやカート画面で効果的に行うことで、顧客単価の向上が期待できます。
新規顧客を獲得するには、既存顧客にリピートしてもらうよりも5倍のコストがかかると言われています(1:5の法則)。
安定的な事業運営のためには、一度購入してくれた顧客との関係を維持し、ファンになってもらうための施策が不可欠です。
CRM(顧客関係管理)ツールを導入し、顧客の属性や購買履歴を一元管理するのが第一歩です。
上記の情報を活用し、メールマガジンなどで顧客一人ひとりに合わせたアプローチを行います。
例えば顧客の誕生月にクーポンを送ったり、購入した商品の関連情報を配信したりするなど、One to Oneのコミュニケーションを重ねることで顧客との信頼関係を深め、リピート購入へとつなげられます。
理論や施策を学ぶだけでなく、実際に成功している企業がどのような戦略をとっているかを知ることは、自社の戦略を考えるうえで大いに役立ちます。
本章では、独自の戦略で大きな成果を上げている海外企業の事例を3つ紹介します。
アメリカのWalmartは、コロナ禍でAIとロボティクスを中心とした物流・在庫管理の自動化を進めたことで、2021年度のオンライン売上高は前年比で79%増加しました。
また、宅配・受け取りサービスは3桁増と大幅な成長を遂げています。
2021年8月には、これまで社内で使用してきたEC関連技術を外部企業にも提供すると発表しました。
Adobeと提携し、同社のプラットフォームを通じて、オンライン注文から店舗受け取りまでの業務を効率化できるシステムを小売業者に販売しています。
結果として、他社もWalmartのモバイルツールを使って受注や受け取りの管理が可能となり、顧客はよりスムーズな購買体験を得られるようになっています。
また、Walmartの通販サイトで商品を販売し、新規顧客の獲得や全米2日以内の配送も実現しました。
本事例は、大規模なデータ活用と最新技術の導入が、いかにEC事業の効率化と売上向上に貢献するかを示しています。
参考:Virtasant「Retail AI: Emulate Walmart’s Strategy with Top Tools」
日本貿易振興機構「米ウォルマート、自社のEC技術を小売企業に販売 (米国)」
サステナビリティを理念の中心に据えるD2Cブランドの存在感が高まっている中でも注目されるのが、持続可能な素材を活用した靴を展開するアメリカ発の「Allbirds」です。
羊毛やサトウキビ、再生ポリエステルなど環境負荷の少ない素材を使用し、スニーカーやランニングシューズを自社ECサイトと直営店で販売しています。
現在、世界53店舗(うち日本3店舗)を展開するまでに成長しました。
サンフランシスコ本店では商品点数を絞り、広々とした空間で顧客がゆっくり試着できる設計となっており、量より体験を重視した販売スタイルが特徴となっています。
Allbirdsの事例から、価格競争に陥らないためのブランディングの重要性や、顧客との関係構築が長期的な成功につながることが学べます。
参考:日経クロストレンド「スニーカーのオールバーズ「サステナブルの説明は後回し」の理由」
アメリカの小売大手Targetは、幅広い決済手段を導入したことでEC売上を前年比195%に拡大させました。
Apple PayやPayPal、後払いサービス(BNPL)などを採用した結果、特にスマートフォン利用者やZ世代の利便性が向上し、購入途中の離脱率が大幅に低減しています。
また、店舗とオンラインの連携を強化し、いかなるチャネルでもスムーズに買い物ができる環境を整えたことで、顧客満足度の向上にもつながっています。
本事例は、大企業に限らず中小企業にとっても参考になるでしょう。
自社の顧客層に合った決済手段を導入すれば、購買意欲が高まり、売上やCVRの向上が十分に期待できます。
参考:Psicosmart「Case Studies: Successful Workforce Diversification through Technology Adoption」
ECの販売戦略について解説してきましたが、「自社だけで戦略を立てるのは難しい」「施策を実行するリソースが足りない」と感じる方も少なくありません。
こうした場合は、外部の専門家の知見を借りるのも有効な選択肢です。
EC販売戦略について相談する専門家選びに迷ってしまう場合には、ぜひagsにご相談ください。
agsは、豊富な実績とノウハウを持つEC戦略のエキスパートとして、お客様の課題や目標を丁寧にヒアリングして最適なプランのご提案が可能です。
販売・運用戦略の立案、業務効率化、広告運用、商品ページ改善など、EC戦略をトータルでサポートします。
豊富な支援実績をもとに、貴社に合った戦略と改善施策をテスト設計し、無駄な投資を抑えつつ検証できます。
本記事では、EC販売戦略の重要性から具体的な立て方、施策、成功事例までを網羅的に解説しました。
EC事業を成功させるのに、魔法のような特効薬はありません。
自社の現状を正しく分析して明確な目標に向かって一貫した戦略を実行し、市場の反応を見ながら粘り強く改善を続けていく地道なプロセスの先にこそ、確かな成果があります。
まずは本記事で紹介した「現状分析」から、最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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